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同世代の私にはよくわかるのだが、大学進学率が10%にも達しなかった当時の工業高校の機械科と電気科は若者に最も人気が高く、秀才の集まる難関だった。
私の兄なども工業高校の機械科出身だが、中学のときの実力テストではベストテンを落ちたことがなかった。 それゆえものづくりの会社は、地頭がよい上に工場の仕事の基本を知っている工業高校の卒業生に群がった。
一人に対して20社、30社と募集が殺到したのである。 Kさんもそのような募集を受けた一人である。

いすゞの藤沢工場の生産技術課がKさんの「ものづくり人生」のスタートの場所である。 トラックを作るためのさまざまな機械、そして各種の道具などを使いこなし、かつラインなどの設備の設営をするのが仕事だった。
だから彼は、汎用の旋盤も扱えるし、溶接もできるし、ヤスリがけもできる。 まだものづくりの現場が、カンやコツを必要とする機械や道具を使うのが一般的だった時代だ。
31歳のときに、生産技術の係から、設計・開発に異動した。 設計と開発はものづくりの花形である。
さまざまな素材が設計された形状に加工されるとき、「どのような機械で」「どのような刃物で」「どのような速度で」、それができるのかを知っている人間がヽ設計に携わることの意味は大きい。 これが日本の「現場」の強さである。
といっても昨今はスピードの時代なので、会社によっては、現場は入社時の新人教育の時に数ヵ月いただけ、などという例もある。 また、ここで「日本の」などといってはいけないのかもしれない。
日本には無数の会社があり一般論では語れない職場もあるだろう。 ともあれKさんの強みは、デスクワークの人ではなく、現場を知っていることにあった。
ものづくりは油まみれになることをいとわない人間が強いという。 そのKさんが江崎工業にスカウトされる直前のいすゞでの役職は、設計課長である。
設計課長とは、図面に最終的にサインをする人である。 現場の技術者としてこれ以上のポストはない。

かつての日本の職場にはこうした事例がずいぷんとあった。 しかしKさんのように高卒が大企業の課長になるようなチャンスは減っている。
5年ほど前、デンソーなどで調査したときも、工場の現場では20人、30人と部下のいる高卒の管理職がけっこういたが、最近は高卒そのものが少なくなっているので、これからの職場ではなかなかこういう事例はあらわれないだろう。

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